R5/12/24・25 新風プロジェクト『果ての月』公演レポート
■シェイクスピアへの初挑戦
2023年12月24日(日)、25日(月)、東京都北区の「北とぴあ」で『果ての月』が上演されました。一日2回の計4回公演で、24日と25日でラストの演出を変えるという試みが話題を呼びました。大衆演劇ファンはもちろん、共演者のファンの方も多く足を運んでくれ、初めての方に大衆演劇を知ってもらうという企画主旨を達成することができました。
2022年から始まった新風プロジェクトの中でも、初めてシェイクスピア原作の芝居に挑戦。『ロミオとジュリエット』を、江戸時代の侠客一家の争いに書き換えた物語でした。渡辺和徳のオリジナル脚本は、独特の言葉の煌めきに溢れていました。たとえば、幕開きでは花魁・小春が「敵同士を親に持つ 不幸な星の恋人二人 運命(さだめ)の坂道転がり落ちて 死の影まとう恋の道行き」と調子良く言葉を刻んだり。また、ロミオにあたる清吉の長台詞は「夕暮れに染まった茜空。まるで薄張りの硝子のように、冬三日月が煌めいている」で始まったり。言葉が、美しい世界観へ観客を誘い込みました。
■大衆演劇役者の魅力を発信
ロミオ=湊川一家の清吉に、劇団美山の里美たかし総座長、ジュリエット=岩倉一家のお雪に、橘小竜丸劇団鈴組の橘鈴丸座長。いまの大衆演劇を代表するスター×スターの組み合わせが実現しました。お雪が清吉のいる遊郭を訪れる場面は、二人きりの絵がドラマチックに映え、そのスター性が際立ちます。二階から空を見上げる清吉の、会場を引き込む独白。そこに彼の死を信じたくない気持ちで祈るように訪れるお雪の、絵のような姿。お雪は閉まった戸を叩きます。応じない清吉。緊迫した空気の中、もう一度、戸を叩く音が響く…。上下のピシリと引き締まった構図が、両者の粒の大きさを感じさせました。
また、三咲暁人が演じた湊川一家の政の、死に様の大迫力は、最も大衆演劇的な一シーンであり、会場を呑み込みました。そして、三咲愛羅はお美代という難しい役どころを、影を宿した表情で見事に務めました。座長から若手まで、大衆演劇の役者の魅力を見てもらえた公演となりました。
■各分野のプロフェッショナルが集結
岩倉一家の親分・権八には、俳優の吉田智則(バウスプリット)を迎えました。かつて仕えていた湊川一家を裏切ったという設定に説得力を持たせる、深みのある悪徳ぶり。権八が殺される中盤までの物語を、どっしりと支える存在感でした。
BRATSからは7人が出演。安田桃太郎演じる鉄造は、権八の右腕ポジションですが、権八と被らない粗野な悪役の魅力を見せ、物語後半のメインの敵方を務めました。熊倉功演じる熊吉は、その相方として活躍。また、花魁・小春役の穴沢裕介は、女形芝居、かつ冒頭の語りを務める重要な役どころでした。終盤の殺陣では、BRATSメンバーが人を投げたり、二階から落ちたり、観客が息を飲むような技が披露され、衝撃を与えました。
音楽を担当したSADAは、原点回帰公演『泥深に咲く蓮華』に続き、芝居の世界観を大切にした楽曲を提供。またチョン烈のプロデューサーとしてもお馴染みのKAKETAKUは、遊郭冒頭のダンスシーンやラストシーンなどの振付を担当した。9PROJECTからは『つか版忠臣蔵』に続き、高野愛が出演。大衆演劇に関わる様々なプロが、一つの世界を作り上げ、2023年新風プロジェクトの集大成となりました。
大衆演劇の専用劇場以外に飛び出す外部公演は、2022年の「MixaliveTOKYO」(東京都豊島区)、2023年の「新潟県民会館」(新潟市中央区)、そして「北とぴあ」。いずれも、大衆演劇を初めて見た方から「面白かった!」という声をいただくことができました。発信と挑戦はこれからも続きます。