R5/12/22・23 新風プロジェクト×9PROJECT『つか版忠臣蔵』公演レポート


2024.01.11

■待望のつか作品第2弾

2023年12月22日(金)・23日(土)、東京都北区の「北とぴあ」で『つか版忠臣蔵』が上演されました。22日18:00、23日12:00の2回公演。つつじホールの402席の客席は、ほぼ満席になりました。つかこうへい作品を大衆演劇の役者が演じるのは、2022年の新風プロジェクト『寝盗られ宗介』に続く2作目です。『寝盗られ宗介』では、つか作品のリズムと大衆演劇の熱の相性の良さが、ファンに鮮烈な印象を残しました。『つか版忠臣蔵』も、役者たちの生命力みなぎる声と体、そしてノリの良さが、脚本のスピード感に噛み合って、おかしさと哀しさが駆け抜ける2時間となりました。

■既に手練れの演出

主人公・宝井其角を演じた三咲暁人が、演出も手掛けました。そこには、これまで新風プロジェクトの多くの作品を演出してきた経験値が生きていました。たとえば序盤、主要登場人物が、赤穂浪士の名前の書かれた台座に乗って順に出て来る場面の、これから何が始まる?というワクワク感。また一幕ラストは、舞台中央に睦み合う近松門左衛門と志乃や、上手に遊興三昧の大石内蔵助たちを配置し、すべてを見下ろす二階で、紙を跳ね上げながら執筆する其角という図で締めくくっています。舞台空間を多層的に作ることで、ドラマチックかつ物語全景を見せる腕が冴えていました。

■役者のパワー

ホールの高い天井と大きな舞台でも、役者たちの個のパワーは、通常の大衆演劇場と変わらない弾け方を見せました。

まず赤穂浪士たち。住宅ローンを気にしている大石内蔵助を、絶妙な面白さで見せた澤村蓮。名が売れたことを嵩に着ている、お調子者の大石主税を演じた美月流星。また水廣勇太は、ピッピッと鳴らす笛がトレードマークの大高源吾を演じ、天夜叉演じる頭のゆっくりした浅野内匠頭に、苦心しながら辞世の句を読ませる場面で、大きな笑いを巻き起こしました。

三咲春樹は、芝居の中で死ぬことに喜びを見いだす坂田藤十郎役で、終盤の展開を握るキーマンでした。また近松門左衛門は、物書きとしても志乃への恋路でも、其角最大のライバルになる役で、瀬川伸太郎が大人の艶を持って演じました。

そして大衆演劇ファンにもお馴染みの9PROJECTメンバー。高野愛演じる泣き女・志乃の、其角との終盤の台詞の応酬は、飛び出す言葉一つ一つが観客の胸を突き刺していきました。志乃は、自分は「河原乞食」だからお侍とは一緒になれないと絶叫します。いっぽう其角は、泣き女である志乃の、商売ではない真実の涙と慟哭の叫びを聞きたいという渇望を口にします。双方の誇りと執着が絡み合い、ぶつかり合う凄絶な場面でした。一方、小川智之の善良な吉良上野介役は、全編通して一番の愛されキャラでした。吉良が大石たちに、今夜にでも明日にでも討ち入ってほしいとお願いする場面は、そのねじれた関係性と吉良の善良さに、会場が爆笑に包まれました。

■冷静に俯瞰する

とりわけ、芝居を引き締めたのは、主人公の其角を演じた三咲暁人の俯瞰的まなざし。四十七人(結果的にはその倍の九十四人)を、死に追いやる大芝居を仕掛けながら、赤穂浪士にも藤十郎たちにも完全に肩入れすることはなく、それぞれの死と誇りを物書きとして眺めます。いっぽう、「皆々様、よろしゅうおたの申します」「俺は近松に勝ったか」などの其角の決め台詞は、大衆演劇特有の技法・ヤマ上げで表現されました。大衆演劇を外の世界に届けるという、新風プロジェクトの企画主旨の通り、その魅力が自然と組み込まれた芝居となりました。

新風プロジェクト×9PROJECT『つか版 忠臣蔵』
原作:つかこうへい 脚本:渡辺 和徳 演出:三咲 暁人

※ラスト舞踊ショー